日本清興美術協会

2013年栃木清興美術展受賞作品の講評

講評:高山 知也(常任理事)

栃木県知事賞  山口 昭 (洋画)「花と少女」

帽子をかぶり右手に引き寄せた赤い花を見つめる少女の横顔を、横位置の画面いっぱいに描いていて大変印象的な構図である。そしてデッサン力も確かである。
さらに、作品全体を覆う抑えたレッドブラウンの重厚な色彩が、花や葉の色彩を抑え、この作品に深さを与えている。
また青春期の痛々しい感受性が感じられるマチエールとニュアンスは、画面全体を引っ掻いた鋭い無数の線により表現されている。高度な感性と知的工夫が見事に溶け合った美しい作品である。またそうした独特の鋭い引っ掻きの線の表現が可能であるのは、画面の基底材が多分キャンバスではなく、板材によるものだと思われる。

栃木県議会議長賞  平山 華(洋画)「旅の途中」

海外旅行で出会った異国の街かどの風景画である。路にかかるアーチ状の建物がこの作品のポイントとなっている。
両脇の建物が微妙に歪んで描かれている事により、通行している人々と共に画面全体が揺れ漂っているようで、作者のときめく旅情が表現され見事である。
アーチの向うに続く明るい遠景が、旅の続きを暗示させる。
色彩もパステルトーンで美しく、何やら夢の中の風景かのようである。
空も地面も淡い色彩であるが、しっかり表現されているので作品全体が甘さに流されないものとなっている。

宇都宮市長賞  藤沢 正子(水墨)「彩」

一本の満開の桜を抜群の表現力で堂々と描いた大変美しい作品である。
確かな水墨の表現技術はとかく洒脱に過ぎてありがちだが、この作品は高度な技術を見せびらかすことなく力を抜くところは的確に抜いて、さりげないが緊張感を失わずといった難しい表現がなされ「素晴らしい」の一語に尽きるものがある。
満開の花を墨の表現に淡い桜色の顔彩をさっと重ねて、満開の桜の周りの空気感まで表現されている見事な作品である。

宇都宮市議会議長賞  柿沼 武子(ボタニカル)「夏の庭」

オニユリを中心にミズヒキやダイコン草が、大きな空間に自然でかつ緊張感を持って美しく構成されている。
主観を抑えた克明な客観描写は、悪い意味での単なる図鑑的表現にならず、植物の儚げに見える在り様と共に強い生命力も感じさせる見事な表現である。
モチーフの珍しさによりかからず、身近なモチーフをひたすら凝視する作者の清潔な作画に向かう心が強く感じられる印象的な作品である。