日本清興美術協会

2013年清興展受賞作品講評

講評:日本清興美術協会

内閣総理大臣賞  梅 田 東支子「悠久を翔ける(古代記憶)」(洋画)

内閣総理大臣賞

梅田 東支子
悠久を翔ける
(古代記憶)

古代をテーマにした作品を続けている作者は、今回はアイヌ民族をモチーフに選んでの制作である。縄文時代と深くかかわるこの民族は、一方北方海流民ともつながりがある。 また騎馬民族との関係も作者はかなり意識している事が、馬群の流れと画面中央の若者の乗る馬に見ることが出来る。
こうした歴史画を油絵で描く難しさに真正面から挑戦している。 ダブルイメージの作画法を用いて、この民族がたどる渦巻くような時空間を表そうとしている。画面全体に銀箔を張り、そこに渦巻き状のマチエールを施し、空間の美しさをさらに奥深いものにした秀作である。

参議院議長賞  堀 内 和 子 「海岸通り」(洋画)

参議院議長賞

堀内 和子
海岸通り

海辺の明るい陽光の日差しの中、海岸通りに面した街角のカフェを明度の高い彩色で描いている。 建物、人物など画面上のモチーフは、確かなデッサン力に基づいている。 構図も画面左奥に消失点を設けて、新緑の街路樹が繁る海岸通りを見通す様に描き、奥行きの深い表現が巧みである。 そこには明るい爽やかな初夏の海辺の、洒落た佇まいの空気感が見事に表現されている。

衆議院議長賞  香 西 佐和子 「玉島港」(水墨画)

衆議院議長賞

香西 佐和子
玉島港

小品ながら表現力に優れた水墨画である。係留中の船や水そして遠景の橋や街並みを、力をこめて描く所、抜く所と自由自在に表現している。 そして和紙・墨・水が一体となり、それぞれが相互に影響し合って墨が美しく発色している。その結果、港の空気の湿度や温度まで伝わってくるようである。 だからと言ってテクニックを見せつけるような浅い表現に落ちず、作者の高い精神性を感じさせる秀作である。

文部科学大臣賞   山 知 也 「山の手所見(音羽台)」(日本画)

文部科学大臣賞

山 知也
山の手所見(音羽台)

東京山の手の音羽の台地、何気ない住宅地の風景を描いた作品である。 山の手の切通しの、静かな住宅の木々の深い緑に焦点を当て表現している。 その緑は様々な岩絵の具の粒子のちがいを駆使して、明度彩度の複雑な色彩を追及している。 また油絵に負けないマチエールの追及もなされている。 街灯や手すり、階段はあえて説明せず「白抜き」で表現したことによりこの作品の中央にある家の窓らしき矩形の抽象表現を効果的なものにしている。

外務大臣賞  B・Sarnai 「モンゴルの乙女」(洋画)

外務大臣賞

B・Sarnai
モンゴルの乙女

フォーブ的な荒いタッチで人物や空間を面で的確にとらえている。 ブルーを主とした空間は衣装の赤い色彩を美しく見せている。 また空間に散在する様々な色彩も効果的である。 さらに少女の右目は瞳を緑色で、左目は瞳を黒でその輪郭線は緑色で絵画的に表現して巧みである。 前進を「くの字」にしたポーズは、片手に鏡、もう一方には結った髪をもたせバランスをとり、安定感がある。 こうした色彩・構図・ポーズ・タッチの構成がよりこの作品を瑞々しいものとしている。

東京都知事賞  猪 瀬 淑 子「寂」(洋画)

東京都知事賞

猪瀬 淑子

水墨画を思わせる山水の表現に載せて桜や楓の花や葉が染色風にあしらわれている。 画面中央には緑、ピンク、青のスポットが飛び散っている。一見洒落た画面である。 細部を良く見ると鹿の親子や渓谷の岩肌に巧みな表現がなされている。 しかし左の桜花の部分に団扇の様な形や、中央の白い岸壁は唐突の感はいなめない。 しかしそれを越えて作者自身の思いを『抽象』とも『具象』ともつかない中で実験し探り苦闘している事が感じられる作品である。 (一般より初出展)

東京都議会議長賞  武 田 育 雄 「根源の愛 神秘の輝き」(洋画)

東京都議会議長賞

武田 育雄
根源の愛 神秘の輝き

大宇宙のほんの一隅にある銀河系の隅に太陽系がある。そこに存在している地球、そして宇宙の時間に比べればたった100万年前でしかない頃に生まれた我々人類がいる。 だが、その我々人類の心あるいは精神は大宇宙に繋がり、絶えず意識しその存在の理由を探し続けている。 そこに神なるものあるいは天啓を見ようとするかのような作者の壮大なテーマが強く表現されている。 作者の内面世界をリアリティを持って表すのに、作者の卓抜したエアーブラシでの表現は最も適していると言えよう。

日本調剤芸術奨励賞  佐々木 孝 子 「想」(洋画)

日本調剤芸術奨励賞

佐々木 孝子

深い青の空間の中、チェストに一人足を組み頬杖をつく若い女を真正面から描いている。 若い女性の持つ夢や自信そしてそれ故の不安や恐れといった、若さ故に抱くまさに「想い」を表現している。 しかしそうした「想い」に対して膝を組む足は若々しい生命力を強く感じさせる。 さらに深い青の空間と青いドレスは、補色であるこの女性の肌を美しく見せることに成功している。 若い女性の内面の相反する様々な想いを、色彩やポーズなどで知的に計画し、表現することに成功している。

日本調剤芸術奨励賞  青 木 汎 「風の艇・第一マーク」(洋画)

日本調剤芸術奨励賞

青 木 汎
風の艇・第一マーク

ヨットレースのコースを示す三角形の第一マーク、そしてヨットの三角帆は激しく逆巻き渦巻く海を行く。 それらに呼応して空も円環状に渦巻いている。 激しい動的空間を表現している。その空間の中、レース中のヨットが向うからやって来て、ターンし戻ってゆく、そのターンの最中のヨットを画面の中心にして描いている。 参加した様々なヨットの様子を表現している様でもあるが、作者の真の意図は『時間』を表現したいのであろう。 難しいテーマに挑戦し成功しているのは、ヨットに乗る人物描写のデッサン力を見ても明らかである。