第44回清興展受賞作品講評

講評：理事長　��山 知也

内閣総理大臣賞　「アンデルセン物語」　田畑 久美子　洋画

正確なデッサンの人物表現と、破綻のない調和のとれた色彩のハーモニーが美しく大変見事である。
健康的で童女の面影も残る可愛らしい少女と巧みに文様化された水の流れ、そしてそこに浮かぶ船の様なランプとの関係から、アンデルセンの物語のワンシーンであることが推察される。
そして空間を占めるバラの模様、そして少女の後背は東洋的仏教的な後背とは全く異なるものである。
それらに作者の色彩も文様も西洋的な空気感の中にこの物語を閉じ込めたことが認められる当会最高賞にふさわしい傑作である。

衆議院議長賞　「我が家の菜園」　兵庫 弘美　ボタニカルアート

作者の菜園で収穫された野菜や豆の花・菊や菜の花・唐辛子・ネギ坊主などなどを、画面も心の密度も濃く描いている秀作である。
これだけ数多いモチーフを描いているにも関わらず、うるさくなっておらず新鮮な植物の美しさを強く感じられるのは、各々のモチーフの配置と構図の巧みさである。
そして作者のこれらを育て収穫した愛情と喜びが卓抜な表現技術により、溢れ出ている秀作である。

参議院議長賞　在る（インド犀）　浦野 晶子　日本画

インド犀の頭から半身を画面いっぱいに描いている。
結果、画面を大変大きく感じさせ素晴らしい。
鎧を身につけたかの様な体のごつごつとした皮膚感や短く太い脚と爪やひげの塊だという角などの質感を見事に描き分けた表現は圧倒的である。
半面、音に大変敏感に反応するという耳の毛は慎重に描かれているのも見事である。
そうした特徴を大切にとらえ、各々の質感にこだわり表現している。
動物をこれまで描き続けているこの作者の対象に対する愛情は、体の圧倒的な質感や重量感に対して繊細で優しく美しい目玉の表現に象徴的に見られる秀作である。

文部科学大臣賞　「お洒落したブナの木」　五月女 昌弘　洋画

ブナ林の中の小道の一隅に見られた木々の姿である。
ブナというからには、少々高い山中か高原での取材であろう。
寒さに紅葉した木々の中で、根元にまだ紅葉していない鮮やかな緑の蔦が絡まったブナの木が２本寄り添っている。
普通なら、あたりの紅葉した木々に感動し、こうした一隅になかなか目がいかないものである。
しかし作者の鋭い感性は、この２本のブナが美しいエメラルドのネックレスをしたおしゃれな美女２人の様に感じられたのである。作者の楽しい思いや若々しい感動が素直に伝わってくるまさに秀作である。

外務大臣賞　「祈り」　畑 昌子　洋画

十字架のある建物が、中央右に暗示するかのように２つ小さく描かれている。
そして左に続く格子の扉のある大きな青い矩形は、そのお御堂の様に見える。
格子は十字架の連鎖する形でもある。
そして聖なるお御堂の中や周辺の木々などにも見られる黄色、紫、丸や三角などの諸々の形は、青に象徴される清らかなお御堂の中での人々の祈りの形なのであろう。
それらが空高く天に送られてゆく祈りの光景である。
そうした暗示的な表現に満ちているが、決して教条的な表現ではなく、更にそうした表現が半抽象で描かれているところが見事である。まさに秀作である。

東京都知事賞　「時空」　保�� 達朗　洋画

この作品のテーマは、この作家が永年追及している「映り込み」の不思議さである。
そしてこの作品では、『不思議の国のアリス』にも出てくる『合わせ鏡』の映り込みの、時空間のずれの不思議さ面白さである。
作品の中の実際描いているアトリエの時計の時刻と、描かれた絵の中の時計の時刻が異なっている様が、連綿と続いて　いく描写は、誠にウィットにとんだ傑作である。

東京都議会議長賞　「フジ」　岩原 卓子　ボタニカルアート

藤の花と絡まる枝の様子を、ボタニカルアートとして客観的に写した作品である。
だが主観的描写は控えねばならないボタニカルアートであるのだが、ただ美しく精緻に描かれただけではなく、懇親の思いを込めて描写することにより、フジの花や絡まりうねる枝が見せるどこか怪しげな魔力のある生命観まで描写してしまったかのような秀作である。
又枝と葉なの作る構図は向かって左の空間が大きく開かれ右下の空間は左の空間の約三分の一であることが、この作品を情緒的なものから知的な空間としていて見事である。

駐日モンゴル国大使館賞　「月と茂原公園」　金澤 弘光　洋画

満月光に照らされた桜満開の公園の一隅である。
清めるかの様な月の光が、公園の全てのものを美しい陰影の中に怪しく包んでいる。
公園を囲むかのような丘の木々の表現も良く抑制され見事である。
無人の公園の広場で『これから何が起こるのか・・・妖精が・・・』 などと思わせるような清らかなファンタジーの傑作である。

---

清興展Topページ

【作品紹介】第43回清興展受賞作品紹介のページ

【作品講評】第43回清興展受賞作品講評のページ