第43回清興展受賞作品講評

講評：理事長　��山 知也

内閣総理大臣賞　「倉敷・川舟乗場」　森山 芳生　日本画

倉敷の有名な美観地区と呼ばれている場所にある今や観光用となっている川舟乗場の風景に取材している。
古い大きな商家や舟などが正確なデッサンで精緻に表現され見事である。こうした保存されたまさに典型的な観光地の風景が、俗に流れず品格のあるリアリティーで表現されている。舟着き場の客待ちをしている船頭たちの表現も洛中洛外図などに見られる日本画の伝統を踏まえた表現がなされ、更に川端の柳の細かい描写も品よく生き生きと表現され見事である。まさに内閣総理大臣賞にふさわしい日本画の伝統に基づいた、品格の高い見事な秀作である。

衆議院議長賞　「山のごとき巨人」　手塚 博也　洋画

夕暮れのヨーロッパの街角の風景である。道は左にカーブしながら消え、真正面の遠景に巨大な風車とその周りの家並みが見える。 それからここはアップガウンしながら続く丘の上の街であることがわかる。道の両サイドの壁は堅牢なマチエールが魅力的であり見事である。
そして視線は画面中央の風車に集まるように知的な構図と構成の上に描かれ、この作者の感動が伝わってくる。画題の『山のごとき巨人』とはセルバンテス作「ドン・キ・ホーテ」の中で風車を『山のごとき巨人』と例えていることに由来している。しかし画面上部３分の１に大きくとった残照に映える空は、その下の風車を中心に広がる街やそこに生きる人びとの存在以上に、より『大いなる存在』を強く感じさせる奥深い秀作である。

参議院議長賞　「残照」　尾高 康之　洋画

海岸の日没直後の一瞬の光景である。海岸もその先の岬も訪れる夕闇の中に沈んでゆく。そうした中、水平線に沈んだ太陽の名残の光の美しさに感動して描いていることが分かる。
丁寧な描写の積み重ねが波のリズムに乗せ表現され見事である。更に遠方のまだ明るい空は清らかで崇高でさえある。これまでの人生の来し方を深く感じながら描ていると感じられる秀作である。

文部科学大臣賞　「深山に咲く」　岸　純子　日本画

山の奥に分け入った時、目の前に咲き誇る山百合に出合った時の驚きと感動を描いている。山百合の驚くほどの美しさに感動し、奇をてらうことなく真正面から丁寧に描いていることが、ダイレクトに伝わってくる秀作である。
奥山の背後の藪の表現も、省略することなく日本画そのものの精緻な表現がなされ素晴らしいものである。深山の澄んだ空気の流れやそれに乗ってあたりに漂う山百合の芳香まで感じられる傑作である。

外務大臣賞　「ある春の日」　代島 千鶴　日本画

画面全体の春の暖かい霞の中にモチーフの形は溶け込んでいる。
わずかに画面左下の菜の花の輪郭が描かれていることにより、その上に広がる土手の花々の春を連想させ見事である。 更に土手の上でこちらを見ている人物さえも霞の中で溶け込んで表現されていることにより、形なき花咲く春の日差しと空気を描こうとする大胆な絵画的挑戦は、見事に成功し素晴らしい作品となっている。

東京都知事賞　「明日はきっと！」　柳　誠一　ペン画

雨降る街の交差点の情景が綿密に描かれている。
色とりどりの傘をさした人々が行きかう交差点やビルの窓の明かりやショウウィンドウ、ネオンや車のヘッドライトそしてそれらを写す雨に濡れた交差点の道路など、絵や写真の題材として魅力的な材料が溢れている。そしてそれらと真正面から取り組み、ペン１本で見事に描き切り表現している。それらを精緻に描くためのエネルギーは莫大であろう。だが、とかくそうした作業自体の面白さに溺れ表現内容に対する思いの深さに欠けがちであるのだが、この作品は題名にもみられる作者の思いが真摯に表現されている傑作である。

東京都議会議長賞　「TOMORROW」　赤星 ひとみ　アクリル画

今までの画風をガラリと変えての出品作である。 それまでの絵具を平面的に塗り込み、その上に様々な素材をコラージュした作品と打って変わって、絵具をたっぷりと使って大きなストロークで大胆に塗り込んでいく喜びがストレートに伝わってくる秀作である。
更に画面上４分の３の大胆なストロークによる塗り込みと、下４分の１の丁寧な塗り込みの変化の対比が見るものを楽しくさせ見事である。更に画題の「TOMORROW」を暗示しているのか、右上の黄色の大きな円形と画面全体に散らばっているそれを小さくした黄色の点々は美しく見事である。

駐日モンゴル国大使館賞　「響�U（古代記憶）」　梅田 東支子　洋画

アイヌ民族の伝統楽器である『ムックリ』は口に咥えて音を響かせるものであるが、それを無心に夢中に奏でる少女の姿が描かれている。それは片方の下駄が脱げてしまったことに気が付かない様子である描写でも分かり見事である。この楽器の響きは少女の周りの空間からどこまでも、時空間さえ超えて響いてゆくのであろう。
それを空間に満ち満ちて描かれる（この作者のトレードマークともいえる）丸い輪状の形態が暗示している。遠景にいる鹿達さえも木蔭に立ち止まらせるその音が伝わって来そうな傑作である。

清興大賞　「備前水指」　木村 桃山　工芸

　たっぷりとした形でかつ大らかな表情のなか、要所要所に緊張感をある曲線が見られる。これらが作品全体を引き締め、凛とした空間を作り出し実に見事である。
こうした陶芸作品の秀作はすべからく作品の内側から、外側に向かって力が漲っているものであるが、この作品もそうした緊張感ある力が感じられ見事である。更に作品の正面下３分の１に指でグイと引掻いた様な垂線がさりげなく引かれており、これがこの作品の対称性を破る力強い作家の意志を感じさせる見事な傑作である。

清興優賞　「紅葉に映えるエッフェル塔」　岡本 玲子　洋画

此の作品に描かれているエッフェル塔は、良く目にする方向（正面）からではなく、横方向のセーヌ川にかかる橋から見てスケッチしたものであることを作者から説明を受けた。あまり目にすることのない珍しい構図である。そうしたエッフェル塔を大胆に中央に配置した堂々たる構図は見事である。
そしてその左右対称の退屈になってしまう構図を破るように左下に紅葉の並木と建物を配置し、右下には森が連なっている。更にそれらを支えるようにセーヌ川の水面と橋が配置された絵画的構成は知的であり見事である。

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