第42回清興展受賞作品講評

講評：理事長　��山 知也

内閣総理大臣賞　「めぐる春」　��山 知也　日本画

めぐる春がやってきた。描かれた場所は深山幽谷の世界、画面中央に朽ち枯れた大樹が大きく根を張って立つ。その脇に新しい命のヒコバエが育ち芽吹き、そこに1羽の小鳥が留まっている。人に春を注げてくれるものは何か？　花か？　草か？　樹木だろうか？　作家は１羽の小鳥に託し小鳥のさえずりを以て大画面に描きアクセントとし、小さいながらも大役を果たしている。陽春の日差しがその老大樹と小鳥を暖かく包み、大自然の中に春の香りを漂わせている。萌え出る木々の芽や長く厳しい冬に耐えた苔の緑が際立つ。樹木の間から青空も見えて、静寂の中に甲高い小鳥のさえずりが聞こえる。色彩も暖色系の黄土色系を巧みに使いライトブルー、ライトグリーン、木々や枯葉の中にわずかな赤色もみられ、色彩についても見事なハーモニーを醸し出している。本展における最高の賞にふさわしい作品である。（評論：橋本 直一）

参議院議長賞　「DISTANCE（心）」　岡崎 義弘　洋画

題名から「距離感それも心の・・・」ということか。そうした文学的抒情を色彩平面により絵画的抽象表現で描いている。それが端的に見られるのは、マンガの『吹き出し』の様な形が赤と緑のそれぞれの平面の関係性に見られ、各々が互いに形を補完しあっているようである。ここでもその他の色面は鋭角的であり、赤の平面のみが曲線の連続である。この作品は平面の形と色彩が互いに補角実角の関係にあり、その関係性はまさに心理学的距離感を表している。情緒的な主題を知的に構成しているまさに秀作である。

衆議院議長賞　「兆し」　浦野 晶子　日本画

漆黒の闇の中で一匹の黒豹が、三日月を振り向き見上げ睨んでいる。何かの気配を感じてなのか、それともこれから起こる何かを感じた瞬間なのか。闇に佇むその緊張感あふれる姿から、『次に何が起こるのだろう』と鑑賞する側を導き、想像を巡らせる力がある傑作である。更に闇の黒は色とりどりの下塗りが効いた複雑で美しい空間表現が見事である。更に三日月と黒豹の目玉に浮かぶ三日月、そして三日月形の爪という抽象的形体の連鎖の絵画的な表現は、単なる抒情的な動物画の形態描写を越えた知的構成となっている。まさに衆議院議長賞に相応しい秀作である。

文部科学大臣賞　「あきいろ」　岩原 卓子　ボタニカルアート

画面右上半分にケイトウが3本描かれ、それに続くように1本のアマランサスが配置され、更に下方には色とりどりのアマランサスが並んでいる。上下に細長い空間に前後の空間を感じさせる構図は見事である。更に彩りも豊かで秋の気配を感じさせ大変美しい秀作である。更に画面右下から中央へS字模様のように土を表現することによって、モチーフすべてをまとめる感覚は大変知的である。 ボタニカルアートの表現技術が、これから爆発的な成長を十分期待できる力量を感じることが出来る。まさに文部科学大臣賞にふさわしい作品である。

外務大臣賞　「風薫る」　前林 栄　洋画

　清潔で美しい若葉緑が滴る山岳風景画である。 中央の山の峰の凹凸の表現は簡略化して表現しているが、的確であることから自然である。又中景の緑の森も様式化されて描かれているが自然でありこれも見事である。さらに青空を写す湖と近景の緑の森は様式化と自然描写を見事に組み合わせた知的な構成で素晴らしい。永年こうした山岳風景を素直に描いてきた結果、生な描写から本質を象徴化様式化して表現しても、作り物にならず風景の本質を生き生きと表現し見事である。 此の風景を前にした時の、作家のフレッシュな感動が素直にかつ考えぬかれた表現で描かれた傑作である。

東京都知事賞　「FALL（�T・�U）」　中村 悦子　工芸

　刺繍の作品である。滝の水流をひと刺しひと刺し縫って表現し、水の水紋は透明のビーズを並べて丁寧に表現している。 左側の作品は、秋の紅葉の枝が滝の上方にかぶさるように配置され、右は桜の枝が配置されている。左側は色とりどりの紅葉が美しく刺繍で表現され、更に散り行く紅葉と滝のコンビネーションは、まさに龍田姫のやって来ていることまで暗示しているかのようである。右側も桜の花びらが滝の流れと共に、そっと仕込まれている隠し文字に絡み佐保姫の到来を思わせる巧みな仕掛けがある。そうしたことを、これ見よがしに表さず控えめでありながら知る人ぞ知るといった趣のある傑作である。

東京都議会議長賞　「渓」　鈴木 京子　　日本画

深山の渓谷風景である。森閑とした空間に画面左上中央から右下隅に流れ下る清流の音だけが聞こえてきそうである。 画面上方のＵ字形の空間にある冬枯れの繊細な木立と渓谷の自然な岩組や質感そして重量感との対比は、互いの特徴を効果的に表して素晴らしい効果があり見事である。 更にその中で１羽の小鳥が飛び立とうとする前の一瞬を描き出し、生き生きとした生命感を際立たせ、画面から静と動、更には無と有をも感じさせる秀作である。

モンゴル大使館賞　「朝もやの渓谷」　田村 春　押し花絵

　草花や葉や苔などを駆使して深山渓谷を巧みに表現している。 朝もやの冷たく清らかな空気を感じることができる。
また奥行き感を出すために、左上方には森を表すための押し花の葉や小枝を配置し、その上から極薄い和紙を張り込み霧の雰囲気まで巧みに表現し見事である。
押し花という限られた条件の下で、１つの世界を構成し表現した秀作である。

清興大賞　「Station」　保�� 達郎　洋画

　街中でガラスのウィンドウに写る光景とその実像が交差する『虚と実』の関係を追及し発表を続ける作家である。 今回は吉祥寺のターミナルである。近年リニューアルされたこのターミナルビルは、JRと井の頭線が交差するように乗り入れ、さらにそこにつながる様々なテナントの入るビルが立て横に連なった重層的な構造の建物である。そこに行きかう人々や待ち合わせであろうか。 ベンチの人々や、更に電車の入ったプラットホームにいる人々も描かれている。こうした重層的な構図を真半分ではなく実像６虚像４の割合で表現している点は、虚実の効果を巧みに計算し表現し秀逸である。更に実像もどこか実在感を割り引いた描き方でこの作品をシュールなものにし見事である。

清興優賞　「球根植物」　兵庫 弘美　ボタニカルアート

約10種類程の球根植物をボタニカルアートの描写表現を厳格に守り繊細に破綻なく表現して見事である。それが端的に見られるのは、1例としてあげれば、葉脈などに見られる極細の白い描線が加筆ではなくボタニカルアート独特の塗り残し（日本画で言う堀塗り）で繊細に表現されているところにも見られる。まさにボタニカルアート作品のお手本ともなりうる秀作である。 そして何より描き表現する喜びが画面に溢れ、それを象徴するかの様に2匹の蝶が画面に動きを加え、絵画表現としても秀逸である。

---

第42回清興展Topページ
【作品紹介】第42回清興展受賞作品紹介のページ
【作品講評】第42回清興展受賞作品講評のページ