第41回清興展受賞作品講評

講評：理事長　��山 知也

内閣総理大臣賞　「ショウルームに映る街角」　堀内 和子　洋画

車のショウルームの中から見える街角の風景である。
車がショウルームの大きなウィンドウに大きく映り込み、外にいる通行人やショウルームをのぞき込んでいる人と街角の風景の画像が重なり『虚』と『実』が裏返されたかのような、複雑で不思議な空間が描かれている。
こうしたウィンドウとその映り込みの作品は珍しいものではないが、この作品のように良く理解して見ないと虚実が混乱してしまうような作品は珍しく、モダンであり大変見事である。
描き方も説明的になる手前で抑えた切れ味の良い薄塗りで、その知的な構成と表現力は抜群である。

参議院議長賞　「鎮魂歌」　田畑 久美子　洋画

画題から近しい人の御霊を鎮めるために描かれたことが推察される作品である。
中央に羽が背にある堂々たる健康的な美しい天使が舞のポーズで立っている。
そして背景には、中央に花をアレンジしたような抽象的な形が左右に広がり、それらを囲むまるで森を下から眺めたかのような金色の直線で構成された文様が取り巻き埋め尽くしている。
画題は『鎮魂歌』であるが、あくまでも明るく健康的に表現された此の作品は、色彩の対比の見事さによるものであり素晴らしい。
またこの作家の力量の高さは、両手の見事なデッサン力からも十二分に拝察されるものである。

衆議院議長賞　「まなざし」　佐々木 孝子　洋画

人物像を追及し描き続けている作家である。柔らかな茶の空間の中に少女が左上前方を見つめ、低いスツールに腰かけている。
少女の見つめる先には柔らかな光を感じさせる表現がなされていることから、単なるポーズではないことを暗示している。
そしてそれは、その光に対して少女が抱いている、これからの未来に対する不安や憧れ希望のようなものを補色のブルーの衣装をまとわせることで表現したかったのであろう。
難しい主題を温かい色彩で見事に表現している秀作である。
さらに言えば少女の履く靴の赤は、グリーングレイの空間の補色であり画面全体にアクセントをあたえ、少女の意思の強さも表しているかのようで素晴らしい。

文部科学大臣賞　「春雪」　尾高康之　洋画

冬の上高地は、雪のため閉ざされている。
だが、春には通行可となるので「スケッチでも・・」と訪れた時、偶然にも雪が降り始め、夢中で描いたという作品である。
普通見ることのできない雪降る上高地に出合い、喜びと興奮の中で描かれた作品は新鮮で迫真的であり、描く喜びが画面から強く伝わってくる。
作家の画力の高さで興奮を適度に抑えていることからも、清らかな空気感が見事に表現された傑作である。

外務大臣賞　「守望」　張　 生　水墨画

これまでの作品とはがらりと変わった作品である。今迄の写実を基本とした具象的な作品とは異なり、抽象的というより水墨でしか表現出来ないと言っても良いであろう暗喩的な精神性が大胆に表現されている。
黒い塊を前にうなだれ力尽きた様な人体が、上からの力のようなものに引っ張られ次第に頭をもたげていく様に見える。
これがまさに画題の「守望」ということなのであろう。
両の腕の表現にも作者の力量が感じられる。荒々しくも見える作品は、作者の気合漲る筆により、まさに水墨の理想である『気韻生動』が存分に発揮された傑作である。

東京都知事賞　「BLUE HOURSE」　マルティン・ファウゼル　アクリル画

ドイツ人の作品である。２０１６年第３８回清興展に初出品初入選で外務大臣賞を受賞している作家である。
其時から変わらぬ技法で制作出品を続けている。何回も薄く絵具を塗り込み、それを必要に応じて拭き取ったり、消込んだりを繰り返し、やがて画面の奥底から浮かび上がる作家の思い描く形の痕跡をうかがう様に制作しているのである。
小さな画面で薄塗りであるため、その作品の深さや重さは一見して判りにくいかも知れないのであるが、其の『祈り』にも似た制作は、『描く』という意味を我々に問う秀作である。

東京都議会議長賞　「古今和歌集 仮名序」　村上 郁子　　書

この書作品の屏風も作者の手により制作されたものであり、その出来栄えに驚きである。
書に合わせての屏風を制作したのか、その逆か、やはり書に合わせて仕立てたのであろう。
大和の自然とそれを歌う人との関係が上質の書によって美しく書かれている。流れるような書に順じた墨の濃淡が美しく屏風の生地も古今和歌集の気品とマッチしている。
裏面は短冊をくわえる鳳凰の図柄であり、その意表を突く意匠は才能の豊かさを感じさせる。

モンゴル大使館賞　「奄美の森」　菊池 有子　ボタニカルアート

精緻に奄美の森の植物を一つ一つボタニカルアートとして真正面から描いている。一見してそのまじめな作画姿勢が清潔感を強く感じさせ素晴らしい。
上方のシダの葉にかかる柔らかな薄黄色は、補色である下の花の紫との対比により生き生きとした美しい表現となり見事である。
モノトーンの草や茎は垂れ下がる先が黄色の白い花を邪魔せず全体を柔らかい空気感としている見事な秀作である。

清興大賞　「遠い日　鐘」　田崎 京子　洋画

画面の下から約半分が、透明であったり実像であったりする蔦の葉で覆われそうになっているブルー紫の空間は、まるでおとぎの国のお城の様である。
これまたおとぎの国のお姫様の様な少女が佇んでいる。ステンドグラスの窓の脇を螺旋階段が画面右上に向かって昇っていく。
画面左上から少女に光が差し込んでいる柔らかな美しい光の色彩が、この作品を夢か現かの世界を演出して見事である。
そしてこの光のように見える色彩は、同時に鐘の音も表現されていることを感じさせる。
とかくこうした主題の作品は少女趣味に傾きがちであるが、この作品はデッサン力、色彩構成がしっかりしているので、清興大賞にふさわしい秀作となっている。

清興優賞　「秋めく頃」　那須 斐子　洋画

バラが生けられた花瓶のテーブル脇に腰かけ佇む女性像の作品である。
女性の視線と共に女性の顔からバラの花にかけて包む暖かい色彩によって、読書中にふと物思う女性の心境が表現されているようで素晴らしい。
又バラの花や女性の白い服の表現に代表される、描いては拭き取りまた描き消し込むといった作業の繰り返しで出来るマチエールが美しい秀作である。

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