第40回記念清興展受賞作品講評

講評：理事長　��山 知也

内閣総理大臣賞　「急流下り」　香西 佐和子　水墨画

大きいサイズの作品ではないが、そのことが長年研鑽を重ね充分な実力のある作家であることを示す秀作である。
画面下方３分の２に急流下りの舟を左上方から右下方に堂々と描き、巧みな表現で水しぶきを描き、そこに乗る人々の歓声まで聞こえてくるようである。
画面上方の空間や山々の表現は、力を込める所と抜く所のメリハリが上品に表現され、画面に深い奥行きを与えている。
特に山と水の接する部分に数か所引かれた柔らかで、かつ鋭い細線による表現は素晴らしく、まさに傑作である。

参議院議長賞　「太鼓橋」　森山 芳正　日本画

鎌倉八幡宮の太鼓橋を斜め右から画面一杯に堂々と描いている。
長年日本画の修復や模写を業として来た経験の厚みは、この作家の本物の技術の確かさを示している。鍛え抜かれた線描で描かれたモチーフの太鼓橋を、岩絵の具の本来の美しさを最大化する薄塗で彩色している技術は圧巻である。
まさに伝統に裏打ちされた「これぞ日本画」と言える傑作である。

衆議院議長賞　ヘリコニアたち　隈部 誠之　ボタニカルアート

「ヘリコニア」という名の南国の植物を描いたボタニカルアート作品である。
エレクトス（直立）スパイラル　ペンダントといった3様の花々が密集して咲いている様子（生態）を画面中央の矩形の中に綿密に描いている。
さらにその下から周りにそれぞれの花を配置し、誠に美しくかつ分かり易く描かれた秀作である。
この作家の抜群の力量とセンスは、以前から注目されてきたものであり、今回はそれが十分表現された見事な作品である。

文部科学大臣賞　「巡礼宿の町」　手塚博也　洋画

スペインのピレーネ山脈にある『ハカ』という巡礼者のための宿がある街に取材した作品である。
そうした歴史の重みが感じられる外国風景を長く描き続けている作家である。
堅牢なマチエールで表現された街の建築物群に対して空もしっかりとしたマチエールの工夫が見られ、構造物と空気との対比の緊張感が心地良く表現され見事である。
それに対し、木々は柔らかで細やかなタッチと色彩で表現され、画面全体の対比が絶妙に美しい秀作である。

外務大臣賞　「ほんの少し浮き上がるための…」　相澤 るつ子　フレスコ画

本会では珍しいフレスコ画に挑戦した作品である。 いつも不思議な感覚の世界観による人物や子供を表現している作家である。
今回は雲が漂う青空に浮かぶ人物（子供か？）が3枚の画面に並列されている。そして各々空間に浮かぶための装置らしきもの（左から凧・中央は独楽・右は空気ロケットであろうか）をまとっているようである。
そうした事を色々思い感じさせてくれる不思議で楽しい作品である。そしてそれを平面化が際立つフレスコで表現すことで、現実的な世界ではなく、より夢や思いの世界である事が伝わってくる秀作である。
下方の海辺の雲や塔や柵を描く細線は実に繊細でこの作家の高い力量を十分示すものである。
作家の絵画的世界観が、しっかりとした作画技術により表現された傑作である。

東京都知事賞　「リヤドロの静物」　香川 温子　葉彩画

いつも色彩感覚が際立つ作品の出品を続けている作家である。
今回は画面右側に大きく横向きの人物を配置し、それに対応して下２/３にスペインの陶器である鹿をモチーフとした置物であるリヤドロの壺とその右に洋梨を配置して画面を構成している。
そしてそれら情緒感あふれたモチーフを四角形と三角形の中に知的に構成し、美しい色彩で表現した秀作である。

東京都議会議長賞　「技」　柳　誠一　ペン画

はしご乗りの技を実に精緻にペンで描いている作品である。
斯うした一瞬を切り取った作品は、写真を参考にして描かざるを得ないのではあるが、この作家は『はしご乗り』の人物やその現場に何回も足を運び取材し描いたそうである。
こうした点から作品に実感をともなう、絵画的主観が感じられるのであろう。さらに人物とはしごとの角度の対比は絶妙なバランスを表し絵画的にも面白い秀作である。

モンゴル大使館賞　「天の海」　中村 悦子　刺繍

書の作品を刺繍により表現した珍しい作品である。
一見したところでは、刺繍によるものとは、ほとんどの鑑賞者はわからないほどの出来栄えである。
古典をしっかり踏まえた書は流麗な見事な作品である。そうした書を一針一針糸で刺して表すことは、その経験がなくとも実に困難であることは理解できるものである。
そうした高度な技を、さりげなく実に当たり前のごとく表現している傑作である。

清興大賞　「エローラ」　鈴木 京子　日本画

インドのエローラ石窟寺院の遺跡に取材した作品である。
日本画で描くこうしたモチーフは、まず杉山寧先生を思い起こすが、それとは真逆に表現している点が素晴らしい。杉山先生の陰影による立体感の表現は日本画による西洋画への接近を試みられているといえよう。が、この作品は陰影を用いつつも杉山先生とは逆に色面の美しい対比による平面化を目指している。
まさに西洋画を踏まえた上での日本画の伝統的表現の勇気ある実験とも言えるのではないだろうか。まさに清興大賞にふさわしい秀作である。

清興優賞　「十国峠の秋」　佐藤 忠夫　洋画

近年絵画的なモチーフのとらえ方とその表現技術が目覚ましくレベルアップしている作家である。
丹念に1つ1つのモチーフを描いている。峠に象徴的に立つ1ッ本の唐松は画面の黄金分割点に存在し知的な構成であり、かつ印象を大変深いものにしている。また遠景の山並みは清らかで美しく、右端にはかすかに不二ものぞいている。
心を込めて対象を愛情深く見つめた素直な表現に心洗われる思いがする傑作である。

新人賞　「斑紋一家 − Hug」　松田 眞住　日本画

この作品は一見して『絵画とは何か』『日本画とは何か』を理解し、表現しようと格闘を続けている作家であることがわかる。
ジャガーに対して深い愛情ある視線で描いているのであるが、決して情感に溺れず絵画的に考え表現している。
空間と実体との関係性を絵画的に追及している姿勢は新人の域をはるかに超えた秀作である。

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